子育て

『バイリンガル教育の方法』まとめ

アルク選書シリーズ『バイリンガル教育の方法』中島和子著はカナダのイマージョン式教育を中心に数多くバイリンガル教育の内容をまとめた名著なのですが、論文を読んでいるようで、ややとっつきにくい印象がありました。

そこで本の内容を踏まえ現在海外でバイリンガル子育てをしている私が感じたバイリンガル子育てをするためにやるべきことと、本の内容を簡単に要約してみました。

『バイリンガル教育の方法』要点まとめ

バイリンガルとは

2つの言葉をきちんと使い分ける力を持った人。バイリンガルは異文化に対する受容度が高く、異文化グループに対しても同族意識を持つことができる。

バイリンガルに育てる上で最も大事なこと

言語形成期である2~15歳頃に言語を「使い分け」せざるを得ない状況に置かれると、子どもは自然に言語を習得する。自然な言語習得は4~8歳がピークと言われているが、15歳以降も言語能力は伸びるので、大学での留学などを踏まえた20年スパンで焦らずゆっくり伸ばしていく姿勢が大切。

バイリンガルの種類

モノリンガル、一方の言語が強いバイリンガル、両方バランスのとれたバイリンガル、両方上手に使えないバイリンガル(ダブルリミテッド)など様々なタイプのバイリンガルがある。

バイリンガルの種類母語母文化第二言語第二文化
モノリンガル××
バランス
バイリンガル
×
アンバランス
バイリンガル

(△)

(〇)
×
バイカルチュアル
ダブル・リミテッド
バイラテラル

上記以外に、言語能力を『話す・聞く』を『読む・書く』に分け、第二言語で『話す・聞く』だけでなく『読む・書く』までできる人を「バイラテラル」と呼ぶこともある。

ダブルリミテッド

子どもの母国語の健全な成長がないまま第二言語の環境に放り込まれると何に対しても反応が希薄な「ボウフラ現象」に陥ってしまう。
例えば海外で共働き家族が、日中に現地の保育園に預けて帰宅後に疲れていてほとんど子どもと母語での交流がない場合などにこの現象がよくみられる。
子どもはまだ何も分かっていないからという理由で現地語の保育園、幼稚園にいれ、家での交流がないと、ダブルリミテッドになりやすい。

バイリンガルと知的発達

複数言語と知的能力(IQ)には下のような関係性がある。

母語力第二言語力IQへの影響呼び方
+の影響バランスバイリンガル
△または×影響なしモノリンガル
バイリンガル
-の影響ダブル・リミテッド
〇→年相応のレベル △→年相応のレベルに達していない ×→できない

母語と第二言語の関係

母語の重要性

バイリンガルの基礎は母語・母文化。言語は違えど、思考の大部分は母語と第二言語で共有している。そのため、母語でしっかりと思考力を付けることが第二言語習得やほかの教科の学力向上に役に立つ。(例えば日本語で「正義」を理解していれば「justice」もすぐに理解できる。)

母語を育てるために家庭でできること
  • 「話しかけ」「話し合い」「読み聞かせ」
  • 散歩しながら見えたものを実況する
  • 親がたくさん楽しそうに本を読む
  • (心理的負担にならないように)子供の言い間違えをさらりと言い直す
母語が確立する年齢と言語喪失

母語は10歳頃に確立する。10歳を過ぎてから海外に行く場合、その人は生涯母語を忘れることはないが、10歳より前に覚えた言葉はその言葉を維持する努力をしない限り子どもは驚くべきスピードで言語を忘れる。そうならないためにも、「学校言語」「社会言語」「家庭言語」で言語のバランスをとる必要がある。

また、特に読み書きできない言語は忘れるスピードが早いので、読み書きは会話能力を含めた言語能力の保持に役立つ。(英語で文字が読めるようになると、漢字交じりの日本語で本を読まなくなる子どもがたくさんいるので、この点でも日本語の読み書きを小さいころからなるべく伸ばしておくとよい。)

母語が現地の劣位言語の場合

母語が現地の主要言語でない場合、母語のその社会における地位、評価で母語の残りやすさが変わる。母語の評価や地位が低いと子どもが母語を人前で話すことをはずかしがったり、劣位である母語を捨てることが大いにある。アメリカ現地校にいる日本人の子供が友達の前で日本語を話すことを恥ずかしがり、ひどい場合は日本語を話せなくなってしまうこともある。そうならないように、海外で子育てする場合は親は母文化に誇りと自信をもち、子どもにみえる母文化の価値をつり上げる必要がある。

バイリンガル教育と年齢

年齢ごとのバイリンガル教育
年齢時代言語形成期言語に影響バイリンガル教育
0-2歳ゆりかご時代前半親、家族不要
2-4歳子供部屋時代前半親、家族バイリンガル教育
4-6歳遊び友達時代前半親、家族、友達バイリンガル教育
6-10歳学友時代前半前半学友、先生バイリンガル教育
10-15歳学友時代後半後半学友、先生外国語教育
バイリンガル教育の立場から見た言語形成期と影響を与える主な対象


2歳までは親が自信をもって話せる母語でたくさん話しかけ土台を育てる重要な期間であり、バイリンガル教育は不要。3歳から4歳までは母語の発達が脅かされない状況で外国語に徐々に触れていく。4歳から6歳にバランスよくバイリンガル教育を通じて複数言語に接触することで自然に第二言語を覚える。このころか友達とごっこ遊びができるようになり、友達や先生など家庭外から言語を吸収するようになる。6歳以降は親よりも学友からの影響の方が大きくなるので、親は学校などの環境をよく考える必要がある。

バイリンガル教育とアイデンティティ

母語から継承語にならないために

母語・母文化にアイデンティティが持てないと、現地語の習得が進むにつれ母語が親から継承されるだけの言語(継承語)という立場に追いやられ年相応のレベルがたもてなくなる。継承語は主に家庭の中だけで使われていて、アイデンティティを持つことができない言語であり、人に母語だと思われて恥ずかしいと思い、人前で話したがらない。4~5歳の遊び友達時代から友達との交流が増えていき、現地語のプレッシャーから母語が伸びにくくなるころに継承語化が始まる。

そうならないためにも、ゆりかご時代、子ども部屋時代に母語・母文化を家庭内でしっかりとはぐぐみ、親子の愛着関係を構築しておくことが重要である。

子どもアイデンティティを肯定し、言語を伸ばす

海外の学校に通う日本人児童は家庭ではL1(母語)不足、学校ではL2(第二言語)不足で自己肯定感が低くなりやすい。今の言語力を肯定し褒めたり、子どもを知的活動に巻き込み、言語を伸ばすことが大切。

また自分のアイデンティティで悩む子どもは「私は地球人である」「私は私でいい」という気付きを与える。

言語を使い分ける大切さ

子どものルーツを育てる

モノリンガルの場合は母語・母文化(ルーツ)が勝手に育つので問題ないが、異文化異言語での子育ては、子どものルーツを育てるために周囲の大人は言語、文化をしっかり使い分ける必要がある。

子どもは楽な言語を使おうとする

子どもに得意な言語と不得意な言語があったら、子どもは使うのが楽な得意な言語を使おうとする。例えば海外で子育てをする場合、親が日本語で聞いているのに子どもは英語で答えるなどチグハグな状況に陥ってしまうことがある。日常生活だけならまだよいが、大学進学の相談など高度な会話が必要な時に深いコミュニケーションがとれないなどの問題が起きる。

言語の使い分けをしつける

どちらの言語を使ってもよい環境があると、子どもは楽な(得意な)言語のみを使ってしまう。親は日本語の使用を子どもに押しつけるのではなく、子どもの立場に立って、自然な自発的な日本語の使用をあの手この手を使って促す必要がある。

言語の使い分けをしつけるため親ができること
  • 二つの言葉を使い分けなければならない状況(言語のニーズ)を作り出す。
  • 子どもにあわせるのではなく、母語をつらぬく。
  • 子供に日本人には日本語、現地人には現地語で話すことをしつける。
  • はっきりした言語の使い分けをする。一つの言語でもう一つの言語を説明しない。
子どもいい間違えに対して

モノリンガルの言い間違え(あげる&くれる、きれいくない等)だけでなく、バイリンガルの言い間違え(がぜをもつ、トランプ遊ぶ?、いま覚えた)に対しても、さりげなく”正しい言い方を教えていい直しさせれば中学生になるころまでに自然と消えていく。

日本語コミュニティの活用

海外で子育てをする場合、家庭の中だけ日本語の場合、日本語の維持がとても難しい。そのため、日本語学校や週末補講、日本語の塾、日本人コミュニティの文化活動等に積極的に参加して日本語に触れる機会を提供することが大切。親は子供の日本人の仲間作りに心して努力しなければならない。(バイリンガル教育は長期戦なので親としても仲間が必要。)

イマージョン方式のバイリンガル教育

イマージョン方式とは

母国語と第二言語を交えた授業を展開するバイリンガル教育方法。例えばカナダでは家庭では英語、学校では英語とフランス語というイマージョン方式が広く採用されている。この時注意したいのが、第二言語は習う対象の科目ではなく、第二言語で科目授業を受けるという点である。

イマージョン方式のメリット
  • 言語の使い分け(言語ニーズ)を自然に生み出すことができる
  • クラス全員が言葉ができないので教師も授業を工夫する
  • 授業としての外国語ではなく、主要教科も外国語で行われるので学術的、論理的な言語力もつく

教科によって使用言語が異なる方式や、同じ教科でも日によって使用言語が異なる方式など様々な種類のイマージョン方式がある。またイマージョン教育を始めるタイミングも、幼児期からや小学校高学年からなどさまざま。

イマージョン教育をはじめて平均して1年半後の沈黙期間を経てにみんなぽつぽつと第二言語を話し始める。例えば家で日本語だけ、友達も日本人だけでも、イマージョン方式で教室内で先生が英語だけを使って教えていれば、1年半後にポツポツとみな英語を話し始める。

イマージョン方式を採用しているカナダの小学校校長曰く、イマージョン教育で第二言語を習得するは、第一言語がしっかりできていることが肝要。

サブマージョン方式

サブマージョン方式は、現地校に現地語が分からない外国人が飛び込み、自分一人だけできない状況で現地語を習得する方法。この方法で現地語を習得する子どももいるが、弱い子はついて行けず溺れてしまう。

ー途中で日本語100%の教育から、英語100%の教育に切り替えるより、ずっと英語と日本語ミックスのイマージョン教育の方が、英語、日本語、その他の学力の伸びがよい。

#開始時期
幼稚園や小学校低学年から始めるトータルイマージョンと、小学校高学年から始める後期イマージョンでは、聞く話すはトータルイマージョンの生徒が強いが、学習時間が短いにもかかわらず、読み書きは同等レベル。→母国語がしっかりしていたから、後期イマージョンの学生の読み書きのレベルはあがりやすかった。
ー週に数回の外国語の授業を取り入れると言った外国語学習はことごとく失敗に終わったが、イマージョン方式を取り入れて初めて「読み書きできるバイリンガル」の教育に成功した。要因は、外国語に触れる時間が圧倒的に多いこと、教室内での言語の使い分けが半強制的に行われること、みんなできない状況で(サブマージョンでない状況で)一斉に外国語学習が始まるので、教師があれこれ工夫しやすいこと、が挙げられる。

#イマージョン教育のデメリット

日本人学校の英語イマージョン教育の場合、友達が日本人だけになり、英語が伸びない可能性がある
-教室以外で使うことがないので維持が難しい。→中学校高学年まで続けないと忘れる。
-教室内方言ができたり、教室であまり使われない言葉が身につかない。-文化が身につかない。→アメリカ留学、ホームステイなどをして補う
ー 一時的に読み書きがモノリンガルに比べて劣るが、しっかりと教育すれば、最終的にはモノリンガルの子よりも良くなる傾向がある。日本語の場合、漢字などの要素が含まれるので、日本のイマージョン学校では毎日1時間国語の授業がある。 
ー 他の教科を英語でやるだけなので、他の教科の学力は落ちることはない。日本のイマージョン教育は、日本の教科書を英語にして教えているだけなので、他の教科の学力に差が出ることはない。
ー 日本のイマージョン教育は、アメリカ人になることを期待しているわけではないので、文化まで理解したバイカルチュアルにはならない。つまり日本のアイデンティティが揺らぐことはない。

海外現地校+週末補習校方式のバイリンガル教育

平日は現地校やインターナショナルスクールに通い100%外国語で授業を受け、週末に日本語補習校で日本語の国語学習をするバイリンガル教育方法。

家と週に2~3時間の週末補講で日本語を使い、学校はすべて英語の日本人高校生の平均的な日本語力は、会話力はネイティブレベル、読み書きは小学校4年生レベルであった。(バイリンガルではなるが、バイラテラルにはなれていなかった。)日本語の場合、漢字が難しく読み書きのレベルが年相応のレベルを保つのが難しいので特に力を入れる必要がある。

さらに、日本語学校で国語を勉強するだけで、日本語で教科学習をするわけではないので、日本語の認知・学力面の言語能力が育ちにくいデメリットもある。

英語力に関して、現地校に入学した日本人小学生の英語力習得期間には2~5年の差がある。外向的な子どもの方が発話回数が増え、会話力の伸びが早い。現地校に通っても、友人が特定の日本人だけだと、英語の伸びが遅い。(英語の日本語がまざったちゃんぽん語などを使ってしまう傾向もある。)

モチベーションの維持

現地校+週末補講の場合、子どもは週末補講の日本語に対する動機付けが極度に低くなりがちである。本来なら友達と遊べる週末に、親に強制的に日本語学校に行かされていて、本業とは関係のない課外学習であるので、子どものモチベーションにならないのは当たり前。

例えば漫画やアニメを日本語で見たいからという理由がモチベーションとなり、日本語で漫画を読み続け、日本語が維持できた人などがいる。

イーマージョン方式か現地校+補習校方式か
会話力読み書き
イマージョン方式
補習校方式

バイリンガルと文化

バイリンガルは2重人格か

バイリンガルが話す言葉によってパーソナリティが変わるのは、日本人が敬語を話すときにパーソナリティが変わる感覚に似ている。敬語を話すからといって二重人格の持ち主ではないのと同じように、バイリンガルだからといって、生まれた時から持っている気質は変わらない。

異文化受容の臨界点

異文化受容の臨界期は9-11歳(言語受容の臨界期と一致)。これより小さい子は異文化を異なるものとして認識できず、その環境そのものをトータル的に文化として受容していく。例えば日系アメリカ人は日本人でもアメリカ人でもなく「日系アメリカ人」としてユニークな文化の担い手となる。

9-11歳より大きい子供は異文化を認識できるので、両文化型になることができる。しかし、母文化の影響から出られず、外見上は必要に迫られて行動パターンが変わることはあるが、情緒面は伴わない。どっちがよいとかはなく、それぞれメリデメがある。

異文化を経験する年齢タイプ
9~11歳以下バナナ型
(外見は日本人、心情は非日本的)
9~11歳以上ゆで卵型
(非日本的な行動はとれるが、心情は日本人)

国内インターナショナルスクール

書籍内で取り上げられていた、国内で英日イマージョン教育を実施しているインターナショナルスクールを紹介します。

New international school of japan

池袋にある一人一言語方式のイマージョン教育をやっているインター

加藤学園 

群馬県沼津市にあるインターナショナルスクール